(プロメテウスの罠)原発のごみ:2 ヒロシマは学んでも
要旨:
2012年8月。モンゴルの青年レンスキーと、大阪大学准教授の今岡良子がマルダイ鉱山跡に入った。それはまるで遺跡のようだった。
かつては鉱山作業員とその家族約1万人が住んでいたという。しかしその面影はない。作業員用のアパート群は壊れていた。ほとんど崩れてしまったものもある。管理施設は基礎しか残っていなかった。
2人はウラン残土のボタ山を歩いてみた。レンスキーが線量計を近づける。毎時5・8マイクロシーベルト。福島第一原発の事故直後、政府が屋外活動制限の基準値とした毎時3・8マイクロシーベルトを超えている。あわてて離れ、車に逃げ込んだ。
地元の自然保護活動家に事前に聞いていた。
「坑道は約400メートルの深さにあります。約11キロにわたって続いています」
今岡は、日米の関係者がここを処分場として使えると期待したことになるほど、と思った。
近くにバラックのようなモンゴル人の家が数軒。彼らは鉱山跡の廃材を集め、近くの村で売りさばいて生計を立てている。
レンスキーは憤る。
「廃材には、強い放射線を出すものもあります。それが近くの幼稚園などで使われているのです」
その夜、一行は遊牧民のゲルに泊めてもらった。ゲルは遊牧民独特の移動式テント住宅だ。太陽光パネルを持ち、電灯やテレビもある。そのゲルの主人は、羊を1匹つぶしてふるまってくれた。彼はいった。
「ヒロシマのことは学校で学びました。でも処分場計画のことは聞いたことがありませんでした」
今岡はモンゴルの草原にあこがれてモンゴル語を学んだ。そのモンゴルに日本が迷惑をかけることになるかもしれない――。
レンスキーも今岡も、モンゴルに処分場をつくる計画は、まだ終わったわけではないと感じている。ねらいは「コンプリヘンシブ・フューエル・サービス」のシステムづくりなのではないか。
「包括的燃料サービス」と訳される。原発の導入国に、ウラン燃料の調達から使用済み核燃料の引き取りまでセットで提供するものだ。
たとえば、日本がA国に原発を輸出する。そのA国にモンゴルがウラン燃料を輸出する。使用済み核燃料は再びモンゴルに戻す――。それを継続的なシステムにしようとしているのではないか。
(小森敦司)
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【プロメテウス】人類に火を与えたギリシャ神話の神族
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