(プロメテウスの罠)原発のごみ:1 モンゴルの仮面青年
要旨:
モンゴルに「レンスキー」というちょっとした有名人がいる。インターネット上のハンドルネームだ。
地質学の専門家で、放射線の技術者でもある30歳の男性だ。
「放射能は恐ろしい。その危険性を人々に知らせたいのです」
インターネットで、モンゴルの原子力関連の情報を発信してきた。それは広く読まれ、反原発運動の中で評価を得ている。
きっかけは2011年5月だった。日本で一つのニュースが流れた。
「日米が共同で、モンゴルに使用済み核燃料などの貯蔵・処分場をつくる計画を立てている」――
スクープしたのは毎日新聞だった。東京電力福島第一原発の事故から2カ月。それは外電で世界に流れた。モンゴルでは「わが国が原発のごみ捨て場になる」と報じられた。
モンゴルにはウラン鉱山がいくつかある。旧ソ連時代に開発されたが、ソ連崩壊後にさびれた。坑道は地下深く何キロも続き、使用済み核燃料の保管にも使えそうだった。
レンスキーはこの報道に怒り、反対に立ち上がった。
08年まで3年間、首都ウランバートルから約600キロ、マルダイのウラン鉱山で放射線管理の仕事をしていた。ウランバートルに移って後は、地質コンサルタントになった。
仕事に影響があるので本名は使えない。レンスキーを名乗ることにした。ロシアの文豪プーシキンの作品「エフゲニー・オネーギン」に出てくる田舎を愛する詩人の名だ。
反核デモに参加するときは、仮面を着ける。「ガイ・フォークス」。17世紀、英国王に反発して処刑された人物だ。
連日の報道やデモの中で、関係国が計画を否定するコメントを出した。現在、処分場の計画は表向きストップしている。
12年8月、日本から大阪大学准教授の今岡良子(いまおかりょうこ)(51)が訪ねてきた。今岡はモンゴル文化の研究をしており、今回はマルダイのウラン鉱山跡を調査するためだった。レンスキーが案内役を頼まれた。
四輪駆動車で首都を出発する。舗装はすぐなくなった。草原の中を十数時間。地平線にコンクリートの建物群が見えてきた。(小森敦司)
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「トイレなきマンション」に例えられる原発。あとに残る放射性廃棄物という「原発のごみ」の行方を追います。
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