S.バトボルド首相への手紙 「核の危険のないモンゴル国のために」国民運動 代表L.セレンゲ著
モンゴル国首相 S.バトボルド様
拝啓
人類が核技術・核エネルギー災害に直面して大敗を喫し、まもなく一年を迎えようとしています。世界の各国政府が日本の失敗から教訓を得て、核エネルギーの利用計画を中止し始めています。現在、日本にある54基の原子炉のうち52基が定期検査で停止しています。にもかかわらず、エネルギー不足も起こらず、電力制限をしなくても日々の暮らしは以前と変わりなく続けられています。この事実から考えると、これほど多くの原発を建てる必要があったのだろうかという疑問がわいてくるのです。このことは、この分野が核の商人たちのロビー活動によってのみ成り立っているということを証明しています。
「原発は経済発展の鍵になります。モンゴルは発展の新しいスタートラインに立ちました。工業団体を建設し、そこにエネルギーを供給するための最も正しい選択が原発の建設です。核エネルギーは自然に優しく最も安価です」という広報・宣伝は、国民ばかりでなく政府関係者までをも惑わせ、原発の建設という外国の失敗をモンゴルで繰り返そうとする行為です。原発建設は、モンゴル国政府が建設計画を立て、外国の資金援助によるプロジェクトの形で実施されようとしています。わが国には原発を動かす専門家が存在せず、この分野における実務経験がありません。また、資金的裏付けが全くないにもかかわらず政府が無責任に決定したことは極めて遺憾で、これに強く反対するものです。
モンゴル国政府は、ウランの輸出について「核燃料をリースする」という用語を造り出し、ウランを輸出して外国の原発から出た核廃棄物を引き受ける新しいモデルを世界に定着させようとしていると報道されています。ウランを専門的に学んだ人材が一人もいないにもかかわらず、ウラン精錬工場を4つも建設する計画を立てています。このことは、モンゴルの手つかずの自然を放射能によって汚染し、自然環境が維持される条件をなくし、数百万に過ぎないモンゴル人が幾世代にも渡って癌で苦しみ、その遺伝子が傷つけられることで様々な病気が蔓延する危険をもたらします。
ウラン・ビジネスに関わる8大国際企業のうち5社までもがモンゴルに参入しているそうです。東部スフバートル県で事業活動を行っているコジェ・ゴビ社は、採掘したウラン鉱石を地下で溶かして精錬し、イエローケーキを生産する試験を行っているとも報道されています。「最新技術」といわれるこの方法について国民には何の知識もありません。国内のどの県で、どの位の広さの土地をどの外国企業が「鉱山ライセンス」によって占有しているのか、それらの事業がどの段階まで進んでいるのかについて、国民には何も知らされていないのです。
昨年4月以降、核廃棄物の問題が公になって国民の強い反対にあったため、モンゴル国大統領エルベグドルジは大統領令を発し、国連総会でも「モンゴルが外国の核廃棄物を受け入れることはない」と明言しました。政治家たちはこの問題を否定してきましたが、「外国の核廃棄物をモンゴルに持ち込むことが具体的に協議されていた」と政府関係者が証言するに至っています。この問題が社会全体に不信感や恐怖心をもたらしてまもなく1年が過ぎようとしています。モンゴル国におけるウラン採掘・原発建設を法制化して実施しようとする政府の首長として首相であるあなたがこの問題について国民に一度も正式に説明していないため、国家安全保障の問題に外国の強い影響、あるいは何か利害関係が隠されているのではないのだろうかという疑念が社会に生まれているのです。私たちモンゴル人は、過去70年近く戦争を経験しておらず、天から授かった故郷で自然災害にもあわずに幸福に暮らしてきました。しかしながら、あなたが政権に就いてからの4年間に、世界帝国を建設した偉大な歴史を誇るモンゴル民族を滅亡させ得る危険な意見や決定が出されました。このことは極めて遺憾で、強い反対の意志をここでもう一度表明したいと思います。
国際社会では「3・11」というスローガンが生まれ、2012年3月11日には世界中で核技術の敗北を認め、核エネルギーのない世界をつくるために市民がひとつになろうとしています。モンゴル国も諸外国と同様、チェルノブイリや福島から教訓を得て、外国の失敗を繰り返さない必要があります。「3・11」を迎えるにあたり首相であるあなたが、わが国を核の脅威から守る歴史的な決断をされることを心から期待しています。
あなたが、わが国の国家安全保障と国民が「安全な環境で健康的な生活を営む」という憲法によって保障された権利を尊重し、人類が今日に至るまで出口を見いだせないこの脅威をわが国にもたらさないことをお願いしたいと思います。首相、あなたにもモンゴル人として愛国心があることは疑いのないことです。あなたにはそれ以上にモンゴル国政府の首長として、愛国心と共に気概をもち合わせておられることも全く疑いの余地はありません。
正式なご回答をいただけるよう心よりお願いいたします。
敬具
「核の危険のないモンゴル国のために」国民運動 代表L.セレンゲ
“Tso’miin Ayuulgui Mongol Ulsiin To’loo” U’ndesnii Ho’dolgoonii Terguun L.Selenge