どうする人類、核のゴミ:/4 モンゴルに処分場計画
◇中国台頭、米に焦り
プルトニウムを利用する核燃料サイクル事業の断念が世界的潮流となる中で、核の平和利用において最も厄介な問題であり、最大の利権となった核廃棄物処分場建設。国際的な処分場計画が浮かんでは消えたオーストラリアを尻目に、米国と日本が昨年9月から交渉を進めた先は、地下にウランが豊富に眠る内陸国モンゴルだった。
米国は核不拡散問題を最も重視し、日本は国家戦略として原発輸出を進めるため使用済み核燃料の引き取り先を国外に探していた。
モンゴル外務省のオンダラー交渉担当特使(今年9月に辞任)は今年4月、ウランバートルを訪れた記者に建設予定地がゴビ砂漠のウラン鉱山周辺だと明らかにし、モンゴルの狙いについてこう言った。「将来、使用済み核燃料を引き取ることで、モンゴル産核燃料の輸出を優位に進めたい」
ゴビ砂漠に近い地域。モンゴルには豊富なウラン資源が眠るとされ、原発建設構想もある
ウランを使った核燃料製造工場を日米の技術で造り、燃料を輸出、さらに使用済み燃料を引き取る「核燃料リース」方式だ。米エネルギー省のポネマン 副長官を筆頭にした米交渉団は、核拡散の懸念を排除するため、使用済み燃料を大量に保有する韓国や台湾のそれらもモンゴルで引き受ける構想をオンダラー氏 らに働きかけた。
さらに、米国側は「日本の青森県六ケ所村に中間貯蔵する核廃棄物を移管すれば、処分地の建設・維持費用確保にメドがつく」とも説明。日本側は否定しているが、当時の交渉過程で米国はモンゴルに対し、日本側から建設資金等が期待できると示唆していた。
3カ国は今年2月3~4日、米ワシントンで合意文書署名を準備し、日本側からは当時の菅直人政権下で原発輸出促進を担った内閣官房参与の望月晴文・前経産事務次官が渡米。初日の事務レベル会合には、日本の原子炉メーカー・東芝も事業参加を目指して出席した。
だが、一連の交渉から外されていた日本外務省が「問題点が多すぎる」との理由で署名に「待った」をかけ、3月の東京電力福島第1原発事故で協議は棚上げに。5月に毎日新聞が計画を報じたことでモンゴル国内で反対運動が発生した。9月にモンゴルのエルベグドルジ大統領が「交渉禁止令」を出し、計画は事実上ついえた。
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「核燃料リース方式」を柱にした処分場利権の行使をにらんでいるのが、10年後には米国に次ぐ「原発大国」となるのが確実視されている中国だ。日本の原子力委員会の尾本彰委員は「中国とロシアがこれからの世界の原発市場を席巻する可能性がある」と指摘した。
東芝傘下の米ウェスチングハウスは06年、原発輸出契約獲得の見返りに、中国に最新型炉「AP1000」の技術移転をのまされた。中国は、これをもとに国産原発「CPR1000」を開発し、14年から輸出する目標を据える。モンゴル国境に近い甘粛省のゴビ砂漠に高レベル廃棄物最終処分場建設も決めており、ロシアと同様、使用済み核燃料引き取りをエサに原発売り込みを図る素地が整いつつあるのだ。
さらに、中国は、核兵器開発を進めるパキスタンに旧型原発2基の輸出に合意しており、米国などは核不拡散上の懸念も高める。
米国務省のストラットフォード部長(核不拡散担当)は3月末の講演で、新興国の台頭で「米国のグリップが低下しつつある」と嘆いた。影響力がある 間に韓国や台湾、中東諸国から使用済み核燃料を引き取る場所を確保したい。モンゴル計画には、米国のこうした焦りも色濃くにじんでいた。【ウランバートル 会川晴之】=つづく
毎日新聞 2011年12月13日 東京朝刊
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