核のごみ 「モンゴルへ」は許されぬ
原子力発電の使用済み核燃料(核のごみ)をどう処分するか―。原発の存廃とも関係して大きな問題だ。
菅直人首相は衆院予算委員会で、使用済み燃料をモンゴルに持ち込む構想について「外国で貯蔵、処分することは現時点で考えていない」と否定した。新首相に引き継がれるのか、日本の姿勢が問われる。
米原子力大手を子会社に持つ東芝が、使用済み核燃料などの国際的な貯蔵・処分場をモンゴルに建設する計画を盛り込んだ新構想を推進するよう、米に要請していたことが浮上している。
包括的燃料サービス(CFS)構想の一環だ。新規原発導入国に必要な(1)ウラン燃料の濃縮、加工(2)使用済み燃料の処分―を一括して解決する狙いがある。
さらに7月には、サービス構想の実現に向けた日本、米国、モンゴルの3カ国の合意文書原案が明らかになった。
原発を新規導入国に売り込むため、商戦の決め手にする狙いが明白だ。原子炉輸出と使用済み燃料の引き取りをセットで行うロシア勢に対抗しようとする。
日米企業は使用済み燃料の自国分処分さえおぼつかない。モンゴル産ウランを加工して供給し、使用済み燃料もモンゴルの施設で引き受ければ、原発を売り込 みやすい。3月の福島第1原発の重大事故後も、原子力業界は原発輸出路線を変えていない。反省の色が見えないとの批判もある。
清泉女学院大の芝山豊教授(モンゴル学)は先日、モンゴルでの学会で構想への異議を表明した。「自分の家の庭に捨てられないごみを、人の庭に捨てる身勝手な発想」と考えたからだ。
原発利用の負の部分を途上国に押しつけるのは道義的な問題が多い。構想については経済産業省が動いたが、外務省がブレーキをかけた経過がある。
モンゴルは7月下旬、海外の使用済み燃料をモンゴルに持ち込む構想の実現は難しいと日本政府に伝えてきた。すぐに動き出す状況ではないものの、今後構想が勢いを増さないとも限らない。
原子力政策を根本から見直すときだ。脱原発依存を掲げる菅首相は使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の見直しや、高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の廃炉も含め検討すべきだとの認識を示している。
原発に頼らないなら、エネルギーをどう確保するかも含めて、深く論議したい。次の首相候補の姿勢にも注目する必要がある。
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