ウラン開発と核廃棄物埋蔵は別問題
2011年9月16日号 p.5
外務省特任大使・A オンダラー女史と、時の話題である核廃棄物問題について数分間話し合った。
――モンゴル国が核廃棄物を貯蔵するということで、大騒ぎとなってから半年経ちました。この話はどこから、あるいは何から出て来たのでしょうか。この交渉を進めたのではないかという高官の中に貴女の名前もあがっていますが・・・。
私の見るところ、原子炉爆発か何か事故が発生すると、このような話題が盛んに取沙汰されるのが世界的な慣行です。1986年に発生したチェルノブイリ原発事故の後も世界の核エネルギーに対する指向に変化がありました。今回は、福島原発の事故後の3月末と4月上旬にモンゴル国での核廃棄物貯蔵に関して、日本のマスコミが報道を始めました。その後、モンゴル国のマスコミも取り上げ、夏から秋にかけて報道し、モンゴル国民の不安と警戒心が今でも治まっていません。実はこのような正式会談は行なわれていないし、文書化された記録も残っていませんし、今後もないと言いたいです。モンゴル国大統領も、国外の有害廃棄物をモンゴル国内に埋蔵する問題は存在しないと非常に明確に言っています。モンゴル国内の法規も禁止しています。核エネルギーに関する法律、2009年に国会が決議した放射性鉱物と核エネルギーに関する政策公文書、非核兵器地域法などの幾つかの法律で禁止しています。ということで、国民の皆さんは安心してください、外国の核廃棄物をモンゴル国に埋蔵したりしませんと、ここで言いたいです。
――しかし、何らかのレベルでの会談あったからこそ、こういう問題が話題になったのでしょう? 日本の『毎日新聞』はかなり具体的な証拠を明示したでしょう。これを核エネルギー庁の長官もインタビューで実証したでしょう?
非公式な会談が行なわれたかどうかは、私は知りません。調査のためか関係所轄内で話され、意見交換されたことは否定しません。核エネルギー庁の長官の発言については同氏自身に訊いた方が良いでしょう。
――だが、国外の報道によると、はっきり言って、他の利益を追求する大企業が投げかけた石ではないか、と疑う人々もいます。それに乗っかって我が国の政治家たちがプレーしているのでは?
そんな側面も実際にはあります。他に魂胆があって「試してみる」ために意図的に広めていることも否定しません。私は、一体どういうつもりなのかを証明できる立場の人間ではないので、言い難いです。でも、モンゴル国が核廃棄物を貯蔵する交渉を正式には行なっていないことは、はっきりと言いたいです。なお、モンゴル国は今後、国内でウラン資源を開発し、鉱物資源からの収益をいかに適切に獲得するかという問題に直面するので、これに注目しています。我が国はウラン埋蔵量で世界の上位に入ります。そのうえ、原発を建設し、エネルギー確保問題を解決し、需要の残りを輸出することに関心のある国です。石炭や銅などの大規模鉱山を外国と協力し、操業を開始しているということで、世界的注目を浴びており、様々な目的で報道される可能性もあります。
――専門家として貴女は、モンゴル国はウランを近いうちに利用すべきだと考えていますか? それとも、時期尚早だと考えていますか?
子どもは生まれてすぐに走れないと同様に、法律が整備されてもすぐにはウラン加工や輸出はできません。核エネルギー法やこの分野の政策を再検討したり、他国の経験を学んだり、国内のエネルギー需要と供給能力を合わせ考えるなどから始めたいです。調査する必要も大いにあります。それには関係する研究所や大学の研究チームも参加させるのも良いと思います。核問題に関係する省庁や部門の政策担当者たちとしては準備したり、学んだりすることが多くあります。政府も国会も、この件に関してはより慎重に検討する必要があります。
――現在、執行されている法律によれば、国内でウランを加工すれば、その廃棄物を自国で引き受ける義務がありますね?
そうですね、モンゴル国内に原発を建設すれば、そこから出る核廃棄物を自分たちで処分する必要があります。しかし、国外に輸出したものの核廃棄物を受け取ることありません。国内での原発の核廃棄物を他国へ搬送することもありません。ですから、最初から原発の稼働力やそこから出る核廃棄物の量、貯蔵、無害化施設など全てを同時に考えたうえで、決めるべきです。国内でウランを利用することと、他国の核廃棄物を貯蔵することは別の問題です。人々はウランの利用について話すと、他国に原発を建設させ、その代わりに核廃棄物を貯蔵すると誤解します。
――政府及び専門家の立場は二つに分かれています。一方はウラン採掘しそのまま輸出すればより安全でリスクが少ないと考え、もう一方は自ら加工しエネルギー需要を満たし、残りを輸出し、核廃棄物を貯蔵して行けば、経済的に有利だと考えます。この分野の関係者として、どちら側を支持していますか。
核エネルギー法はウランを原鉱つまりそのまま輸出はしないと規定しています。少なくとも初段階の加工を行ないイエローケーキとして輸出すべきだと書かれています。従って原鉱のまま輸出することはありません。イエローケーキから次に段階に加工するかどうかをよく検討したうえで決める必要があります。
政策としては、鉱物資源をより付加価値のある最終製品にすることに注目しています。原発の建設費とモンゴル国の経済力から見ると、我が国のように石炭の埋蔵量が豊富な国にとって、核エネルギーがより高い効率性をもたらすかどうかは疑問です。石炭技術を改善し、よりハイテクな技術を導入した工場を建設することを、より重視した方が正しいと考えています。これは私の単なる個人的な見解ですよ。
――ウランをイエローケーキより、付加価値のある最終製品にするにはどれぐらいの期間と資金が必要になりますか?
綿密な計算と調査を見てから言うべきでしょう。イエローケーキから最終製品にするには4段階の加工を行なって、原発に利用できる最終製品が出来上がります。人々はイエローケーキのままで燃やして原子力を生むと考えているようですね。とてもきめ細かい技術、少なくはない資金で加工を行なってから、原発の燃料になります。各段階の加工はそれぞれの工場で行なわれます。そうすると、同じ規模の4つか5つの工場を建設してから、原発コンプレックスが出来るということです。ですから経済可能性から見ても、この多くの段階の内、どれか出来る分はモンゴル国で加工し、それを基盤にした経済を作り出すのが優先目標であるべきだと考えています。一基建設すれば、エネルギー源は安価で安定し、搬送も石炭より何分の一も軽便で、かつ高く売れるなど多くの長所があります。
――貴女がアメリカ駐在の特任大使という立場にあることが多くの人の注目を惹いているようですが・・・。一体どんな仕事をしているのですか?ご家族の方も核エネルギー関係者だそうですが・・・。
私は外務省に勤めています。アメリカだけではなく、日本、フランス、ロシア、中国など、わが国と関係のある国々で会談と交渉をするのが仕事です。核物理学を専攻したので、この部門に密接に関係があります。夫も核エネルギーが専門で、MNFCC社で働いたことも事実です。今は他の仕事をしています。ですが、いろいろ報道されたように大企業と契約したりしたことはありません。根拠のない情報が多く報道されていることをとても残念に思っています。
(聞き手:E.アディヤスレン)